目に前にはシュワシュワと泡をたてて立ちのぼる炭酸飲料水の中に仰け反った可哀想な金魚が一匹。







水子








「あの・・・ 、  さん」
「はい」




その時わたしはとても奇怪な雰囲気に一瞬であるけど脅えてしまっていた。だが、あれ?とすぐに 脅えている自分は変であることに気づいて視線をスッと床に落とす。見てはいけないものを見てしまった気がした。 あれは確か昨日まで水槽の中でゆらゆらと泳いでいた金魚。それが今は水槽の中ではなくグラスの中にあって 水の中ではなく炭酸飲料水の中に浮かべられていたのだ。部屋の中は炭酸の強烈な匂いが金魚の臭みを上手くかき消している。 それは非常に不思議な光景であったが大人しく冷静に思考を巡らせれば 炭酸水の中に金魚とはたしかに不可解なものであるけれどなにも脅えてしまうことはないだろう。わたしは自分の行動にまたしてもあれ? と思いわけがわからなくなる。わたしの見る限り彼女は金魚をとてもよく可愛がっていたと思っていたのに何故炭酸水の中 などに投げ入れてしまったのだろうか。金魚はなにか悪い事をしてしまい罰を受けているのか。頭の上には見事にクエス チョンマークが浮かんでいる。彼女もきっとそれに気づいているだろう。わたしは切り返しの利かない失敗をして しまったのだ。どうしようもなくなったので光を失った暗い瞳をした愛すべき友人である彼女の姿を見て真実を問う しか他にない。彼女はそんなわたしを愚かだと思っているのか、もしくは興味がないのか目が合っても表情一つ変えず に笑いもしなかった。




「死んでるじゃないですか、金魚」
「うん・・・  私がエサをあげようとした時にはもう、死んでた」




そう口を動かすけど、動くのは口だけで他の顔の頬の筋肉等はぴくりともしない。まるで人形のようだけど 妖艶で人間であるというオーラだけはきちんと醸し出している彼女にわたしは素敵だと密かに感動しつつ静かに様子を伺った。 悲しそうだけど悲しくもなさそうで、予想外にも心の内が読めない。細い指がグラスに絡まって手首から血管が青白く浮き上が っており握る手に力が入っていることがすぐに見て分かった。彼女の全神経がそこに働いている。なるほど、と納得するが それが分かったところでなんの意味もなく、わたしは彼女にかける言葉が見つからずに重い沈黙に苦労を強いられた。わたしは さっきから格好悪いことばかりしている。だが内気な彼女は感情を表に出せるほど子供らしく活発な性格 ではなかったので押し黙るしかないのだ。先日祭りで金魚すくいをした彼女はとても無邪気であったのに今は気弱な視線でただ グラスに浮かぶ金魚としんみり目を合わせているだけ。彼女の空間には彼女と金魚しかいないのだ。わたしの存在はどうでもよいものに されている。もう少し深くつっこめば金魚以下の存在に片付けられてしまっている。ああ、なんて無常。少なからずこれでも わたしもれっきとした人間なので悲しく思い、ため息を吐けば水槽は既にからっぽになっていた。 炭酸飲料水に死んだ金魚を浮かべるだなんて、こんなの、こんなの ・・・・





「何故こんなことをしたのです」

綺麗、  だと思って」


彼女の口以外の筋肉が動いたとき、彼女はグラスの中の死滅してしまった小さな赤い生命を飲み込んだ。
ゴクッと音を立てて酷く簡単に飲み込むその姿に、わたしはその次にどんな行動を起こせば良いのだろう。

こんなに残酷なのに綺麗と言う言葉のみで終わらせるさん      うん、  溺死しそうだ
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