夜神くんは私に隠し事をしている。



ごめんなさい夜神くん。私は知ってしまいました。知りたくないのに知ってしまいました。 私はずっと永遠に地球の裏側を知らず楽しい童話集だけを読んでいたかったです。 今世間を騒がせているキラと言うのは夜神くんのことだったんですね。 ごめんなさい夜神くん。私は知ってしまいました。知りたくないのに知ってしまいました。 私はずっと永遠に地球の裏側を知らず楽しい童話集だけを読んでいたかったです。






夜神くんの本当の姿を私はこの目でしっかりと見た。昨日の夜中。午前2時過ぎ。私が寝たあとに夜神くんは ひとりでブツブツと呪文のように口汚く罵る言葉を吐きながら高笑いをしつつ先日報道された 犯罪者の名前をノートに書き殴っていた。最初は悪い夢でも見ているんじゃないかと己の目を疑ったが、 唾を飲む音や冷や汗がそれが現実であることを告げていてただ息を殺してその状況をじっと見ていた。 ノートに名前を書いて殺す。ただ書けばいい。殺したい奴の名前を書いて40秒待てばそいつは死ぬ。 心臓麻痺で。しかし名前の後に死因を書けばその通りにもなる。死因を書かなければ全て心臓麻痺。




ああアアあああああああああああああ!!!!!!!!
なんと言う事でしょう私はここまで知ってしまったのですよどうするつもりですか夜神くん。私は夜神くんがキラで あることを知ってるんですよ更に殺人の手口まで知ってしまいました早くどうにかしなきゃ(ありえないけど) エルにキラの正体をバラしちゃうかもしれませんよどうしてくれるんですか!!!!




私は挙動不審になっていた。




ハア、ハ、ハア。
呼吸は乱れ心臓が締め付けられるように ちくちくと痛み体は寒くないのに震え上がる。まるで病人のような症状を起こしていた。だって最初は信じ切れなかった。 私の恋人夜神くんが世界で一番過酷かつ残虐なエゴイスト殺人鬼であってしかもその存在を今の今まで誰にも知られずに特にとりえのないこの私と平凡に暮らしていることに むやみやたら怖くなったのだ。 本当にどうすればいいのだろう。誰にも相談出来ない。だけど一人で抱え込んでいるのも辛くて死んでしまいそうだ。 悩んだってどうにもならないことなのだけど。分かってるけど。夜神くんに昨日の夜の出来事を見てしまったこと、正直に 打ち明けるべきだろうか。いやしかし打ち明ければ殺されてしまうのではないだろうか。それとも私が見てしまった 事に酷く絶望して激しい怒りや悲しみなどのために頭に血がのぼり最後は良い様に利用されて終わって しまうのではないだろうか。……私は嫌われてしまうのでは?いやだいやだいやだ。 利用されようが殺されようが、絶対に嫌われたくはない。だって私は夜神くんのことを世界一愛している女なので 嫌われることは何よりも大きなダメージとなる。きっとそうなればショックで即ノックアウト。死んでしまうでしょう。まさに心臓麻痺でぽっくりですよ。 私は今史上最高の苦悩に現在進行悩まされているのです。





「ただいま」



色々ぐるぐると脳内を駆け巡ってると、ガチャッと言うドアの開く音。夜神くんが仕事から帰ってきたようだ。 私は無意識に体を強張らせて苦虫を咬んだ。ハッとして、我にかえる。さっきまで散々葛藤していたので心労して気づけば全身 の筋肉が停止して動くことを忘れていた。 一日中家に居た癖に夕飯の準備もお風呂の支度も全くしていません。




「ちょっとお話があります」



私は玄関まで走っていき、靴を脱いでる途中の夜神くんに心臓をバクバクさせながら食いかかる。すると夜神くんは こっちの気も知らずに一体なんのお話かなってにこにこしながら聞き返してきた。う、わあ。どうしようどうしよう。 夜神くんは私がキラの正体を知ってしまったことに微塵も気づいていないから呆れるほど呑気なものだ。 だけどそれはいつもの私の大好きな夜神くんだから安心するところもあるのだけど、 なんだか知らないけどすごい嫌な気分になってきた。 満面の笑みで笑いかけられると罪人は夜神くんの方なのに逆にこっちが罪人になっているような気さえしてくる。恐ろしい。 こんなに優しい人が キラなんて、キラなんて、キラなんて!!整った顔で綺麗な目は奥が澄んでて美しくて、靴を脱ぎ終わった足は床を踏み長い腕が動いたかと思うと私の頬に触れる。 もごもご口篭っていると夜神くんが予告も無くいきなりキスしてきた。んあっ!



「どうしたの?」




…。

瞬時に人生の境地に立たされた。体が今にも震えて大泣きしてしまいそうだ。死にそう死にそうしにそう。




「夜神くん、」
「なに?」
「あのね、」
「…うん?」






 あァっ!! かみさまぁ!!!


夜神くんはキラなのだ。この空間にキラと二人で会話し私は彼と時間を共に過ごしている。 先程口付けまでリアルに交わしてしまいました。 ここは悪魔を目の前に無理にでも笑えばいいのですか。それとも殺人鬼であることに心のまま怒るべきでしょうか。目の前の愛する人を助ければいいのですか。 だけど無力なので素知らぬふりで通り過ぎるべきでしょうか。嘘でもやさしくあるべきでしょうか。真実を隠していいのですか。 本当の事を言っていいのですか。




「私ね、知ってしまったんだ」





ごめんなさい夜神くんごめんなさい。私はあなたをどうすることも出来ません。






「なにを?」









んでもいいのですか。きてもいいのですか。










「…夜神くんのことが、だーいすきだってこと」



ここで心臓が口からでも胸からでもどこでもいい、ぶわっと飛び出て破裂して粉々になって死ねばいいと思った。それだけ私は夜神くんを守る ことに必死であったし疲れていた。全力を尽くして吐き出した言葉は夜神くんにちゃんと伝わったみたいです。よかった。 ほんとうによかった。夜神くんありがとう。キスいっぱいしてくれてありがとう。私は夜神くんのキスで夜神くんが世界で一番過酷かつ残虐なエゴイスト殺人鬼であることを忘れたいのです。このまま知らないふりして夜神くんを愛することだけに生きていけば夜神くんだって 永久に私の傍で笑ってくれるはずだ。玄関で横たわって抱き締められる。床に押し付けられて抱かれた肩は痛みで壊れてしまうん じゃないかと不安になった。恐ろしい現実の所為で今も心臓がバクバクしてるけど、優しい目をしてこっちを覗き込んでくる 夜神くんを私は今も変わらず愛している。大丈夫、これなら夜神くんを傷つけないでいられる。





「急にどうしたの」




はほんとにいつまでもかわいいね。ほっぺたをつねられて、笑われて、悲しくて、嬉しくなる。私は静かに 微笑んだ。顔の筋肉が随分と硬いことに笑えた。泣き出してしまいそう死んでしまいそうと思っているのに実際泣き出しても いないし死んでしまってもいない自分に放心した。夜神くんがとても愛しく笑うから、ここでもしものはなしをしよう。 夜神くんがキラだと言う事がいつしかバレて警察に捕まったらどうするかってはなしだ。夜神くんの目の前でこんなことを 考えたくはなかった。だけど悲しみの行き場が何処にもなかったのでひたすら思考を張り巡らせるしか他に術がなかったのだ。 甘いキスは心に染みて痛みに似た感覚で滲んでいく。私はただの普通の特にとりえのない人間だから夜神くんを助けてあげる ことは出来ないけど、死刑台に立たされた夜神くんを見て私は怒ったり泣いたり悲しんだりも、しないよ。 だけど、いつまでも、繋がってる。赤い糸。のいと。



人の終わりはどこに来るのですか、

私には君をないので


2style.net