「いよいよお前と決着をつけるときが来たな!」
台所に仁王立ちする俺の視線の先では、フローリングの床の堂々と真ん中に陣取るヤツがいた。
てらてらと妖しく黒光りするボディがまるで不適に笑みを浮かべたように見えた。
自分より数倍デカイ敵を目の前に余裕なものだ。しかしそれでこそこちらも倒し甲斐があるというもの、手加減無しに全力で行くつもりだ。
右手にスリッパ、左手にスプレー缶を装備した俺は勝手に頭の中で試合開始のゴングを高らかに鳴らした。
*
勝敗はあっさりとついた。
今まで決定打は受けていなかったものの、連日連戦で俺からのスプレー攻撃を何度も受けていたヤツの動きは昨日に比べてずいぶんと鈍くなっていた。
ゴングが鳴ってからものの数分で、俺は部屋の隅までヤツを追い詰めていた。ヤツはもう自らの死期を悟ったのか、逃げるそぶりも見せない。それでも何か最後に抵抗してくるのではないかと思い、俺はスプレー缶をヤツのほうに向けた。
人差し指で噴射ボタンを押そうとするが、どうにもためらわれる。
この期に及んで何を迷っているのだろう。ヤツが始めて姿を現して今日までの数日間、俺は何のために家中を駆けずり回っていたのか。すべてこの瞬間のためじゃないか。
でも今はこの左手の人差し指が何よりも重く感じられる。
スプレー缶を構えた姿勢のまま硬直した俺は思わずヤツをじっと見つめた。
しかし、今までじっとしていたヤツが突然動き出した。
二本の長い触角をこちらへ向けて、どこにそんな力が残っていたのか、俺に対して真正面から突進を仕掛けてきたのだ。
「!」
俺は構えていたスプレーをあわてて噴射するが、ヤツの動きには追いつかない。
足元まで迫ってきたヤツに対して、俺はすばやく右手のスリッパを振り下ろした。
それが最後だった。*
真夜中の家の外の庭で、俺は両手で土を掻き出し穴を掘っていた。やがて出来た窪みにティッシュで包んだ塊を乗せる。そしてその上にそっと土をかぶせた。申し訳程度に石を載せる。
しゃがんでいた姿勢からスッと立ち上がり、俺は土で汚れた手をはたいた。
頭の中では最後のヤツの突進してきた姿を思い出していた。
なぜだかふっと笑みがこぼれる。
もう二度と俺の前にでてくんじゃねーぞ、ばーか。
星空を見上げると、鋭い三日月が不敵に笑い返した気がした。
-最後の夜-
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