全員からこってり絞られたその日、ユーリたちがデイドン砦に着くとそこにはわずかだが 帝都から避難していた市民が滞在していた。 森を抜けるルートはあまりに危険で、かといって砦の先の魔物にも警戒せねばならず、立ち往生していた彼らを 護衛しながら一旦ハルルの町に送り届けることになった。 ハルルに着いたときはすでに日が落ちていた。 再び泊まることになったハルルの宿屋の部屋数が足りないことから、問答無用でユーリは一人、外で野宿を命じられた。 一人で行動しようとした手前反論はできず、この制裁をユーリは素直に受け入れることにした。 もっとも、人間は一人だったがその横にはいつものように付き従うラピードの姿もあった。それについては誰からも特に批判はない。 一方彼はカロルからユーリの監視をしっかり言い含められたようで、宿を出た後もしっかりこちらの動きに目を配っている様子だった。 「大丈夫だよ、もう一人で勝手なことはしねえって」 ユーリが思わず苦笑しながら言うと、彼の相棒はうなずいたように片目だけの瞳を一度伏せた。 その姿を見たユーリはやれやれと息を吐き、夜も更けた街を歩き出した。 やや急な勾配を登り、丘の上に立てばそこには夜空を覆うほど大樹が枝を伸ばしている。 結界魔導器と同化した三つの樹。ユーリはその前で足を止めた。 見上げた枝先の向こうの空は異常に発生したエアルにより混沌としていた。 まるで様々な暗色の絵の具を流し込んだような色で、たなびく雲の姿もはっきり確認できない。 ユーリはふいと視線をそらすと、方角を見定めるように帝都の姿を探した。 天を貫くような御剣は長い間帝都に安寧をもたらしていた魔導器だ。今はその巨大な魔導器を中心に帝都は混乱に陥っているのだ。 帝都に程近いこの街にいると、肌にまでピリピリと濃厚なエアルの空気が伝わってきていた。 そのあまりに大きな御剣の先からは空よりもより濃厚な色の煙が立ち昇っている。見つめながらユーリは考える。 その下(もと)にいるひとりの姿がなぜ此処にないのか。 一瞬、本気で今を疑った。 視界の隅で舞う花びらが異様にこの場に映えていた。その彼女の咲かせた花は今も変わらず咲き続けている。 過去を延々振り返るのは彼の趣味ではなかった。いつでも現在(いま)から眼を逸らさずにできることをするだけだ。 もし、あのときと悩む暇はなかった。 気が遠くなるような思いで、ユーリは息を吸い込む。隣にいたはずのラピードはいつの間にか樹の根元で腰を落ち着けている。 たとえ明日がどうなっても、彼女が花を咲かせたこの街の光景を忘れないでいようと思った。- 今夜月が見えなくとも -
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