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「なんなのよ、この状況は」

 ふてぶてしくつぶやいた少女の目の前では、夜の静けさにまるでそぐわない有様が広がっていた。

 ここは船の上なのだから、確かに騒いでも目をひそめる人はいない。
 すでに夜半に差しかかっており、海の只中でぽつんと浮かぶこのフィエルティア号に怒号が飛ぶようなことは
まずないだろう。
 船上に持ち出された机の上には、すでに平らげられた後の皿が所狭しと並んでおり、同じぐらいあるのが
アルコールの入ったグラスだった。


「つまり、こういうこと。お酒の飲めなかったお子様としては、大人の不始末を広い心で
 引き受けるしかないってわけね」
「口は笑っても目は笑ってないわ、リタ」

 あくまでにこやかに応対したのはジュディスだ。
 その手にあるお盆にも、片付けられた後のグラスが見事に積み上がっている。
 精一杯の大人の対応を見せたリタは渋々彼女からお盆を受け取ると、何やらぶつぶつ言いつつ
船の中に引っ込んでいった。




「あなたも酔ってないわよね?」
 そう促されたユーリは、船の欄干に頬杖を付いて聞こえなかったふりをした。
 騒ぎ疲れて眠るカロルや、たしなむ程度のお酒で目を回したエステルを横目でちらとうかがってから
ジュディスはその横に並んだ。


「お酒強いのね。つまらないわ」
「何を期待してたんだお前は・・・」
 ユーリは呆れた様子で傍に並んだ女性を見た。
 そういうお前も顔色一つ変えてないくせに、とは思っていても口にはしない。
 酔ったときのことを想像すると逆に怖そうだ、この女は。

「実を言うと私は飲んでいないわ。一応未成年ですもの」
「ハイハイ。一応そういうことにしとくから」
 アルコールは大人のたしなみとしてこれから知っておいた方がいい、とエステルを促したのは誰だったかは
この際忘れておいた方がいいだろう。


 息をついてユーリは切り出した。
「それで、オレに何の話があるんだ」
「あら。何かあなたと約束した覚えはないけれど」
「よく言うよ。この馬鹿騒ぎを最初に提案したのは誰だ」


 夜が明けてまもなく、バウルが運ぶこの船が帝都に着けば一行はひとまず別々に別れることになるだろう。
 エステルは城へ帰り王族として本来の居場所に戻ることになる。
 

 その前にちょっとした打ち上げをしましょう、と言い出したのがジュディスだったのはあまりに不思議だったので、
忘れるはずはなかった。




 ジュディスの様子はあくまで軽かった。


「別にたいしたお話じゃないわよ。でもちょっとあからさまに人前で話したくはなかったから」
「人前で話せない時点でたいした話だろ」
「すぐ終わるわ」
 彼女の口調は軽かったが、何か逆らえない無言の圧力のようなものを感じた。
 観念してユーリは「どうぞ」と先を促した。




「あなた、いつまで全部を自分ひとりで抱え込んでいるつもり?」



 ユーリは目を見開いた。



 

 訪れた沈黙の中で、不思議なほど穏やかな寝息が聞こえてきた。