目覚め
ヴィーナスとウラヌスが交替してから二時間後、今度はサターンとマーキュリーが交替し、ヴィーナスが警備・マーキュリーが簡易ベッドを使っての休憩に入る。夜天は、他の者が休めと言っても頑なに簡易ベッドを使って休もうとせず、セレニティの眠るクリスタルのそばで警備を続けていた。 そのようにして、マーズ・ジュピター・ネプチューン・プルートも休み、休憩する者が1巡し、2巡目も半ばまでまわった頃。 その時は、急に訪れる――。
うさぎに自らのエナジーを送り込んでいた、守護戦士たちの発していた光がフッと消え、戦士たちはガクリと膝をつく。 クリスタルはスウッと消え失せ、うさぎの瞼が痙攣した。
「うさぎ……っ!」 夜天の声に、うさぎの瞼がゆっくりと瞬き、声のした方向に視線を流す。
「……夜天くん……? あたし……?」
白いドレスは、フッと薄れ、額の聖印も消えて、メイド服姿のうさぎに戻った。
「良かった! うさぎちゃんっ!」 大きく息をつきながら、目に涙を浮かべて、マーキュリーが嬉しそうに言った。
「取り敢えず、目が覚めて良かったけど……まだ全快ではないね」 うさぎの両頬を両手で挟み、その顔色や、瞳の力強さ等を検分しながら、夜天が言った。
「うん……ごめん……。なんか、起き上がれそうにない」 非常に身体が重く感じる。うさぎは夜天に、素直にそう告げた。
「この様子じゃ、まだ星をこえて地球へ帰るのは、身体が耐えられないと思う」 「いいよ。とにかく、暫くは大人しく寝ていること」 ウラヌスもうさぎが目覚めたことにホッと一安心した表情で、そう言った。
「うさぎさん、ありがとうございます。真空を助けてくれて……」 深々と頭を垂れる火球に、うさぎは慌てる。 「そんな、私こそ――夜天くんに、助けて貰った……んですよね」 うさぎは自分の中に、夜天の力を大きく感じていた。
「皆も……力をありがとう、ごめんね……」 意識のない間ずっと、仲間たちが自分にパワーを注ぎ込んでくれていたことも、うさぎには分かった。
「もう無茶はしないでよ、うさぎ」 疲弊した様子のマーズだったが、うさぎの無事の喜びの方が大きかったらしく、うさぎの頭に、優しくポンポンと触れながら言った。
目を覚ますと、一瞬、うさぎは状況が掴めず、戸惑うが、すぐに安堵した。 自分を抱きしめてくれている、あたたかい腕。 時間が気になり、夜天の腕の中、起こさないように、そっと体を動かす。
「……っ」 夜天が、小さく声を漏らしたと思うと、うさぎを抱きしめる腕の力が強くなった。 「んっ――」 思わず声を漏らした途端に、腕の力が緩む。
「夜天くん……起こしちゃった……?」 自分を見上げて問いかけてくるうさぎに、夜天は少し驚いた顔をした後、再びキツくうさぎを抱きしめる。
「く……っ、苦しいよぉ……!」 「良かった。うさぎだ」 「んん??」 夜天の言葉の意味が分からずに、うさぎは困惑する。 構わず、夜天はうさぎを抱きしめたまま、触れるだけのキスを落とした。
「今までも、何度か起きて、話もしたけど、意識は朦朧としているみたいだったし、声も弱々しかった」 けど、意識はやっとしっかりしたみたいだし、声にもハリが出てきた。と、夜天は嬉しそうに言った。
「こうしてると、寝にくい? 離れた方がいい?」
「ううん、離れちゃ、ヤダ……」 キュッと夜天のシャツの胸元を掴んだ、うさぎの顔を、夜天は笑みを浮かべて覗き込んだ。 「冗談だよ。そう言うと思って」 言わせちゃった、と、くすくすと笑う夜天に、うさぎは拗ねたように頬を膨らませたが、すぐにつられて笑ってしまう。
「夜天くん……。今度は、あたしが夜天くんのこと、ぎゅってしていい?」 「……いちいち、許可なんかいらないよ」
うさぎは夜天に、強く抱きついたつもりだったが、その腕の力は弱々しく、震えていた。 しばしの沈黙のあと。
「わっ!?」
うさぎが、驚きの声をあげた、次の瞬間。 ぐるりと視界が回って、目の前に見えるのは、天井と、夜天。
「まだ、力は全然入らないみたいだね」 心配そうに、うさぎを見下ろす、夜天の顔。 うさぎは震える手を伸ばし、両手で夜天の頬を包む。そして、その顔をゆっくりと自分の方へ引き下げる。 「? うさ……、っ」 「ん……」 驚く夜天の瞳を見つめながら、夜天の唇へと、うさぎからキスをした。
何度も何度も唇を重ねる二人の呼吸は、だんだんと荒くなる。 触れるだけだった唇が、深く合わさって、いつの間にか主導権は、うさぎから夜天へとうつっている。 うさぎの唇をこじ開け、夜天の舌が口腔内へ侵入し、その激しさに戸惑い逃げそうになるうさぎの舌へ絡みつく。
「夜天く……、んっ」 「……は……っ、好きだよ……。うさぎ」 「ん……っ。うれしい……。あたしも、大好き……。夜天くん、大好き……」
いつの間にか、枕の上に落ちていたうさぎの手は、そっと、優しく繋がれる。 夜天は、うさぎの無防備な首筋へと吸い付いて、痕を残そうと――。
「夜天様、セレニティ様のお連れの方が――」 コンコン、とノック音と、ムネモシュネの声が聞こえてきた。
「星野……ではなかったか……」 ヤツだったら、そろそろブン殴ってやろうかと思ったのに……と、ブツブツ呟きながら、夜天はしぶしぶドアへと向かう。
「誰、何?」 「セレニティ様がお目覚めになられたはず。と……仰るのですが」 半信半疑、といった様子のムネモシュネ。 その後ろには、外部太陽系戦士の4人の姿が。 本当に、うさぎの気配には鋭いな、と思いながら、夜天は小さくため息をつく。 「ああ。今さっきね。――ドーゾ」 小さく開いていた自室のドアを、人が通れるように大きく開く。
「具合は、どう?」 「はるかさん」
部屋に入ってきた仲間たちを見て、肘をベッドに付いて起き上がろうとするうさぎだったが、うまく力が入らないようで、ヨロヨロとしている。 「大丈夫? 無理しないでよ」 夜天が、サッとうさぎの元へ駆けつけ、上半身を起こし、ヘッドボードに寄りかかるよう、座らせてやる。
「熱は、もうすっかり下がったのかしら?」 「みちるさん。熱……って?」 レイに頭を撫でられた記憶から先がない。
「覚えていないですか? はじめに目を覚まして少ししてから、高熱が出たのですよ」 「すぐにこの部屋へお連れして、しばらくはせつなママと私で看病させていただきました。あ、もちろん夜天さんも」 「えぇ、本当? ごめんね、全然記憶がない……。せつなさん、ほたるちゃん、夜天くんも。どうもありがとう」
「いえ。ある程度、容態が落ち着いたところで、夜天さんにお任せして、私とほたるは休ませてもらいましたから、そんなに大したことはしていません」 「大したことはできないから、僕たちと同室に、って言ったんだけどね」 せつなの言葉に、はるかが不満気に続く。 「はるかったら。しつこくてよ?」 みちるが、はるかの口に人差し指を当て、黙らせる。
「はるかパパが、私たちのお借りした部屋へ、プリンセスを一緒にお連れして、看病したいって言ったんです。 「もう、いつもの応酬よ」 ほたるの説明を、みちるがまとめた。
「失礼しま〜す。うさぎちゃん、どぉ?」 開いたままだったドアから、美奈子がひょこりと顔を出した。
「はるかさんたちから、うさぎちゃんが多分気付いたと思うって聞いて。車椅子借りてきたよ」 美奈子のあとから、まことが車椅子を押して入って来ながら言う。
「まだ歩くのは難しいかしらと思ったんだけど、座っているのも辛いかしら……」 「亜美ちゃん。ううん、もうだいぶ気分も良いの。座るのは、何ともない」 「そう。じゃあ、気晴らしに外の空気でも吸いに行かない? すごく良い天気よ。あたしたち、ここに着いてから、誰かさんが起きるまで遊びに行くわけにもいかないしで、ずっと室内にいて退屈してたのよ〜」 レイはいつものように意地悪な物言いをしているが、自らのパワーをうさぎに分け与えたことによる、仲間たちの消耗を気にしないようにの配慮だと分かる。 自分たちは、もうすっかり元気で、早く外に出たいくらいなのだと伝えているのだ。
うさぎは、「うん!」と、嬉しそうに返事をした。
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お正月休みの間に、胸キュン少女マンガ読んで、キュンキュンパワー(笑)を補充したら、夜うさイチャイチャシーンが書けました♡
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