ヴァンボルト公爵の秘密
自分の護衛しているのは、一体何者なのか――と、レテは未だに疑問に思っている。

「あの……」


「ねぇ、レテさん。あの部屋……ヴァンボルト、公爵の部屋だったよね?」


質問しようとしたところ、何かに気付いたようなうさぎの言葉に遮られ、レテは不思議そうな顔をする。

「え? えぇ……。それが何か」


「ちょっと……お邪魔しちゃダメかな」

「そりゃ、いきなり行っては――あっ、ちょっと!」


レテの制止の声も虚しく、うさぎは飛びつくようにドアノブに手をかけ、その扉を開いた――。


 


「何だ?」

「きゃっ!」


うさぎが切羽詰まったように開けた扉の先――ヴァンボルト公爵の部屋の奥隅にあったベッドの上で、二つの黒い影が飛び起きた。


そのうちの一人は、この部屋の住人ヴァンボルト。そしてもう一人は……

「マーガレット!」

「レ、レテ様……っ!」

レテに名前を呼ばれた少女は、顔を真っ赤に染めると、ベッドから飛び出し、床に散らばっていた衣類をかき集めると、そのまま誰とも顔を合わさないように俯き、走って部屋を出ていってしまった。

「待ちなさい、マーガレット! そんな格好でっ……!」

裸廊下に駆けて行くマーガレットを、慌てて、レテは追いかけてしまう。


「火球殿の客人だったか……私めに何か用でしたかな?」

ふぅ――っと小さくため息をついてから、ヴァンボルトがうさぎに問いかけた。

「あっ、と……」


「私のことが忘れられなかった――とか?」

ベッドから立ち上がり、サッと手近のシーツを全裸の腰に巻きつけながらゆらりとうさぎに近づいてくる。

「いや、そんな……」

身を強張らせ、立ち竦んだうさぎの予想に反し、ヴァンボルトはその横をスっと通り過ぎた。


しかし、パタンと部屋のドアを閉めると、うさぎに向き直り、ニヤリと笑う。


「よくも邪魔してくださいましたな。私の安らぎの時間を。

――それとも誰かに聞いて混ざりにいらしたかな? みな結局、はじめ嫌がっても、次から順番待ちするようになるくらいだから」


「じゅ、順番待ち? 嫌がる……?」

「何を今さら。分からないフリなどしなくとも良いものを」

「ひゃっ――ぁ!」

ヴァンボルトに荒々しく腕を掴まれたかと思うと、突然身体が宙に浮き、激しくベッドに放り投げられた。

ドサッと大きな音が立ち、ベッドのスプリングが跳ねる。

ヴァンボルトはすぐさま馬乗りになり、冷笑を浮かべ、うさぎの身体を押さえつけた。

つかまれた手首が痛くて、うさぎは苦痛に顔を歪める。


「お願い、やめて」


不意に手首を締めつけていた感覚が消えたと思うと、ヴァンボルトの手はうさぎの頬から顎に添えられていて、そむけていた顔を強制的に向き直らせられる。

ヴァンボルトの顔が、グッと近づいて来て、うさぎは全身へと恐怖をほとばしらせた。


「いやぁっ!」

悲鳴をあげ、うさぎはギュッと強く両目を閉じた。


「ぅわっ!!」


白い光が部屋中を埋め尽くした――かと思うと、ヴァンボルトの短い悲鳴が聞こえ、身体がフッと軽くなったように感じた。

束の間の沈黙。うさぎは恐る恐る瞳を開け、辺りを見回してみる。


「え……ヴァンボルトさん……?」

ベッドから数歩ほど離れた床に、ヴァンボルトがうつ伏せに倒れている。

気を失っているだけだと思うが、やはり心配で、うさぎはベッドからおり、ヴァンボルトの肩を揺すってみようと、おずおずと手を差し出したその時。

ガタガタッと背後の机が音を立てた。


驚いて振り返ると、音を立てて震えているのは、どうやら一つの引き出し。

加えて、なんだか薄く光も発しているように見える。

躊躇いながらも、うさぎは誘われるように、その引き出しに手を伸ばす。


「……?」

開けた引き出しの中にはポツンとシャーレが一つ置かれていた。


「これ……? きれい……」

思わずシャーレの中身を取り出し、カーテンの隙間から差し込む陽の光に透かしてみる。


透き通る美しい水色の結晶。


すると、廊下をバタバタと何者かが走る音が聞こえてきた。

その音にビクッと身体を震わせ、うさぎはドアの方を窺い見る。


「またここかっ!?」


大きな音を立て開かれたドアから、夜天が飛び込んできた。

「夜天くん!」

どこも傷付いたりしていないらしいうさぎの姿をみとめて、ホッとした様子の夜天だったが、次に床に倒れているヴァンボルトを見て、かたまった。

「ヴァンボルト公爵……」

つぶやき、絶句する。

それもその筈。彼は全裸――腰にシーツを巻きつけてるとはいえ――なのだから。


「ごめんなさい、何か……あたしがやっちゃってみたいで……」

「はっ!? ――ちょっ、ちょっととりあえずここは出よう」

なぜうさぎがここにいるのか、とか、なぜヴァンボルトが全裸なのか、とか、どうやって気絶させたのか……など、聞きたいことはたくさんあったが、夜天はうさぎの腕を引いて、取り敢えず部屋から出ようとする。


「あ、公爵、どうしよう……」

「いいよ、こんなやつ、このままで」

汚らわしいものを見る目で、夜天は言い捨てた。


そうこうしていたら、今度はレテが走って部屋へ入ってきた。


「――夜天様っ!!」

「レテ……。どういうこと? 僕は君に、この人に付いていてくれるよう頼んだつもりだったんだけど」

「申し訳ありません……っ」

「違うんだよ、夜天くん。あたしが勝手に部屋に入ったの。そしたら――」

静かな声ではあるが、かなり怒っていることが感じ取れる夜天の物言いに、うさぎが慌てて仲介しようとするが、喋っている途中で、うさぎはハッとしてレテの方を向く。


「レテさん、さっきの人は……?」

「あ、えぇ……そのことで、夜天様にちょっとお話が……」

「なんだかよく分からないけど、いったん2人とも、僕の部屋へ」


 


**********


 


「なんだって……? ヴァンボルト公爵がそんなことを?」


レテがメイドのマーガレットから聞いた話によると、ヴァンボルト公爵はたびたびメイドに手を出しているらしい。

はじめは、無理矢理で、公爵との交渉はメイドの仕事に組まれているのだと、拒んだら王宮での仕事を失うことになるとおどされ、従うしかなくなってしまう。

一対一で廊下などで会ってしまうと、公爵の部屋に連れ込まれてしまうことが多いので、メイドたちはいつも一人で城の中を歩くときはビクビクしているらしい。

ただ、なかには公爵との行為に溺れてしまう者もいて、マーガレットなどはその一人らしい。


「ですので、マーガレットは事を公にすることを望んでいないのです」

「そうは言ってもな……嫌がっている者もいるのであれば、見過ごせない問題だ」

「エマちゃんも……?」

「いえ、公爵に使われている者は、火球様付きのメイドではなく、城内の仕事をこなすメイドたちです」

メイドはメイドでも、違いがあるらしく、エマのように皇族専任のメイドは、給金や待遇が高く、マーガレットのように掃除や食事の用意などをするメイドは身分が下らしい。


「夜天様、私も現場で公爵と顔を合わせておりますし、ここは一度私に任せていただけませんでしょうか」


「ゔ〜ん……いや、僕も一緒に対処しよう」

「いえ、一人で会わないようにしますから。ムネモシュネと一緒に動きます」

先ほど、うさぎの付き人としての任務を果たせなかった失点を取り戻そうとレテが気負っていることが分かる。


「――そう。じゃあ、逐一報告して。それから、何かあったらすぐ呼んで」

「はい。ありがとうございます」


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う〜……ヴァンボルト嫌い。笑 彼関係の話はどうも筆が遅くなります……。
ていうか、うさぎちゃん、人の部屋にノックも無しでいきなり入ったり、勝手に引き出し開けたり、ダメだぞっ! めっ!w



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