おかえりなさい
場所は変わってリビング。

大気は、キッチンで人数分のお茶の用意をしている。

うさぎは、星野が冷蔵庫から取り出してきてテーブルに置いた、ケーキ屋の箱を、嬉しそうに開け始めた。

そのうさぎの横で、星野がソファに転がる夜天に声をかけた。

「夜天、食えるか? お前が寝てる間に、おだんごとゼリー買ってきたんだぜ」


「――うさぎ、ショートケーキ?」

「ううん。今日、ショートケーキ売り切れで、チーズケーキにした」

「レア? ベイクド?」

「ニューヨーク」

「あ、いいな。僕もそっちが良い」

「えっ! 夜天くんは甘いものダメだと思って、ゼリーがっ……イヤ?」

「うん。うさぎのと交換して」

食べ物のことは簡単には譲れないうさぎは、困ってアワアワしてしまう。もちろん、夜天はうさぎの困った顔を見たくてわざと言っている。


「嘘だよ、ジョーダン。いいよ、僕ゼリーで」

くつくつと笑いながら、夜天はうさぎを安心させるように言った。


 


**********


 


ケーキとお茶の時間が終わると、各々好きなように過ごしていた。

大気は洗い物。

うさぎと星野はそのままダイニングテーブルにつき、最近の十番高校の様子を話していた。


「夜天、そんなところで転がってないで、部屋で寝なさい」

食器を洗い終えた大気が、キッチンから出てきたところで、ソファの上に身体を横たえていた夜天に声をかけた。


「ヤダ。みんながいるココが良い」

「何ソレか、かわっ……」

“可愛い” と言いかけ、夜天が拗ねてしまうのでは、と思い直し、ハッと止まってから、うさぎはゴホンと軽く咳をし、夜天のそばに寄る。

「――夜天くん、ちゃんと自分のベッドで寝よう?」


小首を傾げながら言ううさぎの顔を、じっと見つめた後、夜天が言った。

「うさぎ、今日泊まる?」


「えっ!? ごめん、今日はここに来るって思ってもいなかったし……何も用意がないから帰るよ」

明日も学校だし……と付け足し、すまなそうな顔をするうさぎ。

「前にここで寝泊まりしてた頃の服、あるんじゃないの?」

「あ、う〜、そうか。でもなぁ〜……」

一瞬泊まれるかも、と思いかけたうさぎだが、先ほど家に帰りが遅くなると連絡した際、夜天の家にいると伝えてしまったので、やはり無理だと気付いた。


「夜天、我儘でうさぎさんを困らせてはいけませんよ」

困り顔のうさぎを見て、大気が夜天を窘める。

「ダメか。ちぇ〜っ」

「ゴメンね、夜天くん。また今度」

拗ねた様子の夜天に、うさぎは申し訳なさそうに謝る。


「せっかく地球にきたのに……」

珍しく、子どものように拗ね続ける夜天に、うさぎの母性本能のメーターがギュンと上がる。

「夜天くん、まだ疲れてるみたいだし、もう寝よう? 夜天くんが寝付くまで、あたし、一緒にいるよ」

その言葉に、夜天は渋々、といった様子で立ち上がり、うさぎに軽く背中を支えられながら自室へと向かった。


「大丈夫? 夜天くん」

夜天の部屋の扉を開き、中に入りながら、うさぎは問いかけた。

「んー」

眠そうな様子で、夜天は声をあげながらベッドにパタンと寝転がる。


「ん」

うさぎに掛け布団をかけられた後、夜天は右手を布団から出し、うさぎの方へと差し出した。


今日はどこまでも小さい子のようだなと思いながら、うさぎはフッと顔を綻ばせ、その手を優しく取る。

夜天の身体から緊張が抜けたように見え、薄く微笑んだかと思うと、すぐに穏やかな寝息が聞こえ始めた。


「どんなかんじですか?」

そっと扉が開かれ、大気と星野が顔を覗かせた。


「夜天くん、まだ疲れてるみたい。あっという間に寝ちゃった」

ゆっくりと繋がれていた手を解き、音を立てないよう足を忍ばせて、うさぎは開かれたドアからするりと部屋を出ると、言いながら静かに戸を閉めた。


「このままゆっくり寝かせておきましょう」

「おだんご。もう遅いから、送っていくよ」


大気と星野の言葉に、微笑んで返事をすると、うさぎはそっと夜天の部屋の扉に手を当て「おかえりなさい」と呟いた。


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夜天くん〜! おかえり、おかえり〜!!



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