異変
ピシッ――と空間に亀裂が入ったように感じた。

ハッと飛び起きると、隣で眠っていたパートナーの名を呼ぶ。

「みちる」


「えぇ。感じたわ。鏡、見てみるわね」

はるかの声に応えて、みちるはスルリとベッドから抜け出し、ドレッサーへと向かい、自分のタリスマンである手鏡を手に取った。


 


『はい。世界が……真っ暗になるようなビジョンが……』


覗いた手鏡の中が真っ黒だったので、心配になったみちるは、同じように異変を感じて起きた、家の住人たちと話し合い、レイに電話をかけていた。

彼女はいつも、早朝から火をおこして祈祷している。

電話をかけた時間は、まだ朝の5時だったが、なんら問題なく繋がったのであった。

「他の子たちも、何か感じたのかしら……」

『さぁ……。今のところ私には、この電話以外、誰からも連絡はないです』

「そう……。どうしましょうか。一度全員集まって情報共有を?」

レイの言葉を受け、みちるは自分たちの電話の様子を周りで見守っていた面々に尋ねる。

「あぁ、そうだな――いや、あの子にはまだ知らせないでおこう。とりあえず、その他でだけ集まって話そう」

「でも、プリンセスも何か感じられたのでは?」

自分だけ守られることを嫌う主である。暗にせつなはそのことを示す。


ふむ、と一瞬考えた素振りを見せてから、はるかは決めた。

「その可能性もあるな……。今日、学校であの子に会って、様子をうかがってみるよ。それで決めよう」


 


**********


 


「あ、はるかさん!」

校門をくぐり、グラウンドを横目に校舎へ向う途中、黒いジャージ姿のはるかを見つけ、うさぎは駆け寄った。


「やぁ、おはよう子猫ちゃん。今日は早いんだね」

「何してるんですか?」

「朝練だよ。陸上部の練習をみることになっちゃってね」

ハードルや幅跳びなど、それぞれ自分の種目をもくもくと続けている陸上部の方を見やりながら言う。


「コーチってことですか?」

「ん〜。役割は似ているけど、コーチはきちんといるし、僕も一応生徒だからね。アドバイザーってとこかな」

「へぇえ……何にせよ、スゴいです〜」

「どうもありがとう。ところで……」


「よう、おだんご!」

「あら、セイヤ。大気さんと夜天くんも! おはよう!」

はるかの働きぶりに関心の声をあげたうさぎに、はるかが何かを言いかけたが、星野たちスリーライツが登場してしまった。


ドサッと何かが落ちる音がした。

「なっなん……てん……!?」

音のした方を見ると、地面に落ちたカバンと、青ざめわなわなと震えながら驚いている様子の夜天の姿。


大気は「あぁ」と納得の声をあげた。

「そういえば、夜天は知るタイミングがなかったかもしれませんね」

「君たちの一日前から、僕とみちるもここの生徒になったのさ。よろしく」

はるかも合点がいったようで説明した。


大気と星野は、夜天が倒れた時、かけつけた仲間たちの姿の中にはるかとみちるを認めていた。

一学年上のクラスに転入したと聞き、もちろん驚いたのだが、その時は夜天が優先であったし、それどころではなかった。

ちなみに、夜天を自宅まで運んだのは、はるかの車である。

「聞ーてないよ……。大気〜!」

情けない声を出したかと思うと、しまいには少し怒気を含んだ声で名前を呼ばれ、大気は驚く。

「え、私が悪いですか?」


「っ!」
「ひゃっ!?」


突然、はるかがうさぎを抱えて後方、校舎側へ2メートルほど跳び移った。


スリーライツたちも、はるかと同じタイミングで跳び、二人の側へと着地。

瞬間、ドンっと大きな音がし、先ほどまで立っていた場所には、直径1メートルほどの穴があいていた。


「なんだぁっ?」

穴の空いている位置は、さっきまでうさぎが立っていた場所だ。

「何か、小さな黒い……石?」

星野が恐る恐る、といった様子で円の中心を覗き込み言った。

「石が、ありますね。まさか……隕石でしょうか?」


「――大丈夫か?」

目を点にして、はるかの腕の中、ぼうっとしていたうさぎだったが、その声でハッと我に返り、はるかに向き直った。

「あ、ハイ。ごめんね、はるかさん、ありがとう」

「無事でよかった」

ホッと一息ついて、はるかが目を細めて安心したように言う。

「……」


「おい、お前たち! 危ないから早く教室へ入りなさい!
 あぁ、天王。全部活の朝練は中止だ。陸上部も切り上げさせてくれるか」

「はい」

ものすごい轟音と地面の揺れに、慌てた様子で、離れたところにいた教職員が駆けてきて指示を出す。

指示を受けたはるかは、うさぎたちに目配せすると、陸上部員たちの方へと小走りで去って行った。


 


「うさぎ、ゴメン……」


下駄箱で上履きに履き替え、教室に向かって廊下を歩きながら、夜天がボソリと言った。

「へっ? 何が?」

校舎に入る前から、ずっと難しい顔で何も言わずにいた夜天を心配していたうさぎだった。

やっと話してくれて、ホッとしたのもつかの間、彼の言ったことの意味がよくつかめず戸惑う。


「近くにいたのに……アイツにうさぎのナイト役、とられちゃったな」

「あぁ……。はるかさんはあたしの一番近くに、隣にいたからだよ」

先ほど、うさぎを抱えて避難させ、危機から救ったのははるかだった。それを気にしているのだ。


「それでも僕が守りたかった」

「ふふっ、ありがと。その気持ちだけで嬉しいよ。それにしても、落ちたのがここで良かったよね」

「はぁ……!?」

耳を疑いたくなるセリフに、夜天は理解できないという顔をする。


「だって他の学校に、こんなに危険回避能力が高い人なんてそうそういないもん!」

「それは、そうだろうよ……」

上の学年に二人も増えたしね……と未だはるかとみちるが転入してきたということに渋い顔の夜天。


「と言うことはぁっ! この高校の、しかもはるかさんとか、夜天くんたちが近くにいた、あたしの居た場所に、落ちてきたっていうことは、めちゃくちゃラッキーだったってことなのです!」

「――呑気もいい加減にしてよ! あぁ……僕まだ心臓がバクバクしてるよ……無事でよかった」

言うと、夜天はきゅっとうさぎを抱きしめる。


「ちょっ、おいっ……!」

慌てて星野が周りを見渡すが、自分たちの他に生徒の姿がないことを確認すると、しょうがないなぁ、と肩をすくめる。

「ちょうどおだんごが立ってた位置だったもんなぁ「すみません、私、やっぱりちょっと気になるので、見てきます」

大気は星野のセリフに被せるように言うと、くるりと背を向け外へと戻っていった。


 


大気が再び外へ出て、先ほどの場所へと戻ると、穴の近くにしゃがみこみ、携帯電話で写真を撮っている少女の姿が。

「あら、大気さん」

「水野さん。おはようございます」

亜美は、自分の隣に立った大気に気づいた。


「隕石ですって?」

「恐らく」

「すごい。そんなところに出くわすなんてすごい確率ですよね」

「雷に打たれるよりは可能性が高いと聞きますけどね……ところで水野さんは――写真を?」

「えぇ。滅多にないことですし。データもとらせてもらいました」

「フッ流石ですね。では私は戻ってきて損しました」

「おいおい、お前たち。早く教室へ行きなさい。警察を呼んだので、もう時期来るだろう。直接現場を触ったりしないように」

緊急事態に、校舎の中へ慌てた様子で駆けて行く生徒たちばかりの中、現場で呑気に会話を続ける二人の姿に呆れた様子の教職員である。


「念のため、私も写真を撮っておいてもよろしいでしょうか?」

「大気もか……。まぁお前なら良いだろう。水野と、二人だけだぞ。他の生徒に他言しないように。早く撮って行きなさい」

そもそも亜美が写真を撮る許可を得られたのも、彼女の秀才な頭脳のおかげである。大人たちからも一目置かれている亜美と大気であるので、特別にデータをとることが許された。

もしかしたら、何か新発見をして、この高校の株があがるかも、という打算的な考えが働いていたことは言えない。

けれど賢い当の二人にはそんな考えは筒抜けである。

こっそり目を合わせ、クスリと笑い合った。


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学校の中でも思わずうさぎちゃんにくっついちゃう夜天くん(でも誰にも見られずセーフ!)が書いてみたかったのでした。笑



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